2011年5月4日水曜日

三つの箱から世間を覗く(第70回)

「イノベーションと安全性~焼肉屋食中毒事件③~」

「焼肉酒家えびす」は、株式会社フーズフォーラス(郊外型レストランチェーンの経営)で、設立は、平成10年9月。
その後10年ちょっとで、富山・石川・福井・神奈川で20店舗ほど展開するまでに至っている。
(資本金:4,000万円、売上高:18億円、従業員数:正社員90人 パート・アルバイト400人)

TVで見ると、1皿100円の看板など「人気の秘密」が窺える。
この急成長の背景には、いろいろな「経営努力」があったんだろう…。
社長も28歳の若さだ。
こんな急成長ベンチャー沢山あるだろう。

私は、「Book-off」を思い出した。
それまで「古書店」は「プロ」にしかできない、とされてきたという。
古書の仕入れに際して、仕入れルートと鑑定眼が必要という。
Book-offは、その「古書業界の常識」に立たず、
「本のリサイクル」というコンセプトに立ち、
鑑定眼を持つプロではなくバイトで成立させた。

今回も同じ。
「業界の常識」に立っていては、これだけの急成長は難しかったのではないか?
「肉の鑑定眼」を持つプロを各店で雇っていたのだろうか?
「納入業者を信用した」のは当然だ。信用できない業者から納入は(本来)信じられない。
だが、細菌検査も最初だけ、というのは、
「安全なものを提供する」という飲食店の基本中の基本を忘れており、
この期になっても、まだ言う。
「生肉を規制しなければ、同じような惨事が起こる可能性はある」

彼は、事業規定を"飲食業"としたのではない。"チェーン店"としたのだろう。
そして、その方向性に沿って、"イノベーション"も行ったのだろう。
それが「成功」して、10年ちょっとで20店舗の"チェーン店"が達成できたのだろう。

事業成功の大きなカギは、まちがいなく"イノベーション"であろう。
創造的「破壊」である。
何を「破壊」するのか?
自社・業界の常識、それまでのやり方・あり方であろう。
その中には、「プロ・職人の技」も入っている。
もともと「科学的管理」は「未熟練労働者の活用」が背後にあるのだから…。

「自社・業界の常識、それまでのやり方・あり方」は、なぜ生まれ、何を与えてくれているのか?
この問こそ重要であり、かつまたその答えの出し方は難しい。

「数値を上げたい」そのためには?ならね…。
「数字は目に見える」
だが、
「安全は…?」

ああ、「事業規定」こそ決定的なんだなぁ…。
「わが社の事業は何か?」
誰に、「何を」提供するのか?

「マーケティングとイノベーション」は、
「企業存続のための"未来費用"たる"利潤"」獲得に必要だが、
「事業規定」の設定・理解の深浅を「誤る」と、
「企業存続」ができなくなる。

「事業規定」が「市場(環境)」だけでなく、「社会(環境)」「自然(環境)」にまで意識が及ばないと、
別言すれば、「倫理」を忘れると、「顧客は誰?」の顧客は人間じゃなくなる。

ああ。東京電力福島第一原子力発電所事故にも、
全く、同じように当てはまるじゃないか!?

2 件のコメント:

  1. 竹田(21期)です。

    この会社ですが、就職サイトのリクナビ2012に掲載されていました。
    サイトを見ているだけでは本当にわかる範囲が限られている
    のだなぁと改めて思います。
    皆さん、何か感じる所があると思いますので是非ご覧下さい。

    この稿に見られる先生の考え方に、世の中のどれだけの人が
    理解して、気づいているのだろうかと本当に不安になります。

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  2. 太田(3期生)です。
    フーズフォーラス社が“飲食業”ではなく“チェーン店”と事業規定したの
    ではないかとの先生のご指摘を読み、なるほどと思いました。
    事業には固有の専門性や課題があり、その個別性を無視しては失敗を招く
    ように思われます。古本の価値がわからなくても人体に危害は与えませんが、
    口に入る食材の目利きが出来なければ今回のような問題が発生します。

    事業規定こそが重要とのご指摘を読み、セコム社のことが頭に浮かびました。
    この会社は本業のセキュリティ事業以外に、近年ではミネラルウォーターを
    販売したり、有料老人ホームを経営したり、在宅医療サービスを行ったり、
    刑務所における社会復帰促進サービスを手掛けたりしています。
    単なる企業拡大のための多角化ではなく、確か何らかの共通項が設定されて
    あったはずだと思い、どのように事業規定しているのかを知るためにホーム
    ページを見てみました。

    同社ホームページに掲載された、創業者による「セコムグループが実施すべき
    事業の憲法」のごく一部を引用します。
    “セコムの基本理念である「社会に有益な事業を行う」を常に考えの根底に
    すえ、事業の選択を行うべきであり、いささかも逸脱をしてはならないので
    ある。”
    “実施する事業が、かかる目的に合致するものであっても、派生的に社会に
    有害なものの発生が予測されるものは、行ってはならない。“
    “他のいかなる組織が実施するよりも、セコムが事業化し実施することが、
    最適であるとの判断が重要である。 他の組織が最適な場合には、他の組織で
    実施する方が社会にとって有益であるからである。“

    特徴的だと思ったのは最後に挙げた一文であり、“他の組織が最適である
    場合には他の組織で実施するほうが社会にとって有益“とは、なかなか
    言えることではないなと感じます。
    一方、共通の理念として掲げられた「セコムの要諦」には、一番目の項目と
    して“セコムは、安全文化を創造する。”が定められておりました。
    ホームセキュリティも、水も、在宅医療サービスも、「安全文化」の一つとして
    認識されているようです。
    セコム社の良し悪しについて語るだけの材料は持っていないのですが、事業
    展開する上での基本となるこうした考え方を明確に示すことこそがトップの
    役割なのだろうと思います。
    (2011/5/4 23:41)再投稿

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