2011年6月6日月曜日

三つの箱から世間を覗く(第92回)

「信頼なきものの悲哀」

鳩山前首相は「救国の英雄」と言ってもよいのではないか?

今、日本は「国難」を迎えていると言われている。
その国難に対し、菅首相では立ち向かうことができない、
として今回の「菅降ろし」騒動が引き起こされた。
(実態(本音)は、民主党内の「菅ー小沢」対立につけ込んだ、
自民党の「民主党に対する揺さぶり」策であったのだろうが)

だが、「内閣不信任案」自体は不発に終わり、
菅内閣は継続して国難に当たることになった。
自民党の民主党崩しを「未然」に防いだのは、
鳩山前首相が菅首相と取り交わした「確認書」であろう。

この不信任案提案を自民党から提出されたあとのメディアの反応は、次のようなものだった。
①民主党内から「造反組」がどれだけ出るか?
 小沢グループはどう動く?
 可決されるんじゃないか?(ワクワク)
②もし可決されたら、菅首相はどう出る?
 被災地で選挙などできないぞ!
③この国難の折に、こんな政治ゴッコをしていていいのか?
 可決後の政治空白を起こしていいのか?
 被災者の人たちは怒っているぞ!

①②は、「無責任」なマスコミの「事あれかし姿勢」だが、
③は、国民・視聴者すべてが共有する「正論」であろう。
(勿論、菅首相を積極的支持するわけではないが)
世論は、「与野党が一致団結して国難に当たれ!」
不信任案提案に賛成せず、否決せよ、であったろう。

その世論(正論)に応えたのが、鳩山前首相であり、
彼により、
・政治空白は避けられ
・菅首相の近いうちの退陣が明確化
が為されたのではなかったのか?

それが、「泰山鳴動して鼠一匹」で終らず、ゴタゴタが続くのは、
菅の(鳩山前首相が言う)「ペテン師」的発言(と岡田幹事長発言)であろう。

だが、鳩山前首相の「功績」を評価するどころか、
やれ、「詰めが甘い」だの、「民主党のオーナー気取り」だの
ボロクソではないか!?
(「詰めが甘い」というは、"辞任"の文字がなく、期日がない。
だから、菅に「原発冷却化の目途(来年1月)がついてから」と言わせるのだ、と言う)

自民党は、仕掛けた策を鳩山前首相に阻止されたのだから、
菅の「前言翻し」に乗じて、「詰めが甘い」と非難し、嘲笑うのはわかる。
だが、「世論に立つメディア」は、
自民党の尻馬に乗って、一方的な鳩山批判を垂れ流してどうする?
(勿論、鳩山前首相の「ペテン師」的発言は大喜びで流しているが)

この件をネットで調べようと、
「確認書 鳩山」と入れたところ、
最初の2,3ページは、信濃毎日新聞の記事と、それに乗っかったblogばかりであった。
その信濃毎日新聞の記事とは、以下のようなものだ。

「…(略)…原発事故はいまも進行中の危機である。
さなかに起きた菅直人首相の不信任決議をめぐる
永田町騒動。首相と鳩山由紀夫前首相が交わした確認書に驚いた。
1番目に「民主党を壊さないこと」とある。
震災復興はおしまいの3番目。
この人たち、よくよく優先順位を間違えている。…(略)…」
(「信濃毎日新聞」2011.6.6 http://www.shinmai.co.jp/news/20110604/KT110603ETI090004000.html)

鳩山前首相に対する批判は次の2点か。
①詰めが甘い
②被災者(国民)の方を向いていない

この批判を検討してみたい。
まず、①「詰めが甘い」だが、
彼(鳩山前首相)はわかっていなかったとは思わない。
(a)菅が、「辞任の文字」「時期の明確化」に抵抗した(だろう)  
(b)菅の気持ちが理解でき、それを受け入れる感覚が、菅を信頼させたのではないか
 (それを「甘い」と言うのだろうが…。私は、少なくとも日本人同士なら「信に立つ」を評価したい。)
(c)説得する時間が十分になかった
(甘いというなら、下交渉して、確認書を作った、北沢防衛相(菅サイド)と平野博文元官房長官(鳩山サイド)
はどうなのだ?)

②「被災者(国民)の方を向いていない」に移りたい。
確かに、そう受け取れるであろう。3番目だからなぁ…。
だが、この「確認書」は、どんな文脈から生まれてきたものだろうか?

確認書の第1項と第2項はTVでも全く問題にされないが、
まず、「民主党を壊さないこと」と「自民党政権に逆戻りさせないこと」であったことを確認しよう。
(これを読んでいる人は、目に留めているだろうか?)

自民党が仕掛けてきたのである。
与野党の議員数からして、可決されるはずがないものであるのに、なぜ出したのか?
世論は、復興第一、挙国一致、大連立せよである。
だから、今までのように与党案に反対することが難しくなっている。だが、
(a)ただ大連立をやったって、民主党政権を利するだけ。
 「自民党は、挙国一致で復興を推し進めたいのだが、
  菅がいるから協力ができない。
  菅以外なら協力する。」
  と言うことで、自民党は「復興を重視している」ことをアピールする。
(b)菅vs小沢を利用して、民主党を揺さぶる。
  小沢グループが離脱してくれれば、めっけもの。
  衆院の過半数を割り込むことになる。
  そうならなくても、内輪もめがおこることで、
  菅政権・首脳陣に対する(党内・国民からの)信頼が低下する。
(c)もし、内閣不信任案が可決し、菅が総選挙にしてくれれば、メッケものであるばかりでなく、  
  民主党は割れ、かつ生じるであろうゴタゴタに国民は信頼感を低下するおまけが付く。
どっちにどう転ぼうと全く損はない策であろう。
問題は、「この時期に!?」という非難だけである。
だが、「菅が悪い。菅以外なら」という名分を立てれば、
また、マスコミは(ゴタゴタ好きで、政府批判が好きだから)たいして批判しないだろう、と読んだのであろう。

だからこそ、第1項「民主党を壊さないこと」と
第2項「自民党政権に逆戻りさせないこと」が書かれたのであろう。

そもそも、内閣不信任案自体が被災者のことなど何も考えられていない、
自民党の党利党略から出されたものである。
それに対する対策には、被災者の観点はないのが当然ではないか?
自民党からの仕掛けにどう民主党を守るのか、の観点から確認書が作られるのだ。
この確認書が問題なのではない。
この確認をさせた自民党の不信任案の当否を問うべきであろう。

そういう背景を(わかっていても)問わずに、確認書を非難する新聞のレベルは無残だ。
もしわかっていて、こういう議論をするなら「低劣」と言わざるをえない。
この信濃毎日の記事を受けて、「民主党の姿勢非難」のblogが(ヒットの)上位を占めていた。
正確で公正な報道があって、はじめて健全な世論が形成されるのである。

最後に。
菅は、「意図」に対する信頼を得ていないために、
何をやっても評価されない、
と先日書いた。
鳩山前首相は、「能力」に対する信頼を得ていないために、
これまた、何をやっても評価されないのだなぁ…。

「信頼」の大切さは企業でも同じであることは、あらためて言うまでもあるまい。
だが、経済性や効率性が「信頼(安全性)」を忘れさせることに
「恐れ・畏れ」を感じている企業はどれだけあるだろうか?

2 件のコメント:

  1. 杉山@3期2011年6月13日 19:19

    杉山@3期です

    >菅は、「意図」に対する信頼を得ていないために、
    >何をやっても評価されない、

    >鳩山前首相は、「能力」に対する信頼を得ていないために、
    >これまた、何をやっても評価されないのだなぁ…。

    「意図」と「能力」、リーダーには欠かせないものですね。

    何日か考えてみたのですが・・
    どうしても僕には鳩山前首相を「救国の英雄」と捉えることはできません。

    彼もすでに「信」を失った人物だからです。

    今回の鳩山前首相の動きによって、管首相の退陣がはやまったことは
    事実かもしれませんが、それによって「信」を取り戻すことはもはやできません。

    政治家には嘘を言ってはいけない瞬間があると思います。
    鳩山前首相の場合、それは普天間問題、進退などです。

    また、今回の文脈の中で「自民党政権に逆戻りさせないこと」と「大連立」が
    どうしても同じ戦略として理解することができません。

    鳩山前首相は、民主党内の政権の禅譲、すなわち民主党内の「回転ドア」を
    考えていたとしか思えません。

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  2. 太田(3期生)です。
    内閣不信任決議という制度は、野党にとっての最大の武器であり与党の
    暴走を防ぐためにも尊重せねばなりませんが、今回でいえば小沢グループ、
    宮澤内閣時代でいえば羽田派のように与党の「切り崩し」なくして
    可決されるはずがありませんので、どうにもきな臭い政争の印象は拭えません。
    一方で「大連立」の方向性を模索しながら内閣不信任決議案を提出すると
    いうのでは、国難よりも政権に目が向いていると思われても仕方ありません。
    国民の信頼をぎりぎりのところで保とうとした鳩山前首相の行動の趣旨は
    その意味で評価すべきと考えます。

    信頼に係る今回の作品の中では、次の一文が最も響きました。

    “経済性や効率性が「信頼(安全性)」を忘れさせることに
    「恐れ・畏れ」を感じている企業はどれだけあるだろうか?“

    誤解を招く表現ではあるのですが、安全性を確保するためのコストというのは
    直ぐに効果が表に出るものではありませんので、「表面的には」時として
    経済性の阻害要因に成り得ます。
    「恐れ・畏れ」を忘れずにいるためには、経済性と安全性の関係を
    「両輪」でもなければ「目的・手段」でもなく、安全性=信頼の結果として
    もたらされるのが経済性なのだと認識しておくことが必要なのではないかと
    考えております。

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